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📗 コラム

米国では2050年までに、1000万トンにのぼる使用済み太陽電池モジュールが排出され、廃棄モジュールの排出量は、中国に次ぎ世界第2位になると予測されている[1]. 本記事では、米国における太陽電池モジュールの廃棄規制について取り上げる。

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米国における太陽電池モジュール廃棄規制の動向

連邦レベルにおける動向

米国では現在、太陽電池モジュール廃棄に特化した連邦規制は存在しない[2]。 連邦政府は太陽電池モジュールを固形廃棄物として扱っているが、モジュール内の含有物により、有害固形廃棄物と分類されるものがあれば、無害固形廃棄物と分類されるものもある。固形廃棄物は、有害固形廃棄物、無害固形廃棄物共に、資源保護回復法(Resource Conservation and Recovery Act: RCRA)に基づき連邦政府レベルで管理されている[3]。 RCRAでは、PVモジュールが有害廃棄物に該当するかどうかは、廃棄モジュール排出者が判断すべきであると定めており、判断材料として毒性指標浸出法(Toxicity characteristic leaching procedure:TCLP)を実施するか、排出者が十分な判断材料を所有する場合は、それらの情報を利用することが認められている[4]。 廃棄モジュールがTCLPの条件を満たした場合は、無害固形廃棄物として分類され、RCRAサブタイトルDの対象となる。TCLPの条件に満たない場合や、廃棄モジュールの排出者がそれまでの経験や所有する情報に基づきモジュールが有害であると判断した場合には、廃棄モジュールは有害固形廃棄物として分類され、RCRAサブタイトルCの対象となる[3][4]

州や地方レベルにおける動向

現時点では、太陽電池モジュール廃棄に特化した連邦法は制定されていないが、いくつかの州・地方自治体では、使用済み太陽電池モジュールの適正処理を促すための規制が導入されている。以下では、一部の事例を紹介する。

  • カリフォルニア州: 2020年に、カリフォルニア州で法案R-2017-04[5] が承認され、廃棄PVモジュールがユニバーサル廃棄物(Universal waste)として再分類されることが決定した。 鉛、カドミウム、セレン等の有害物質に対する規制は適用されるものの、ユニバーサル廃棄物に対する規制は、同州の有害廃棄物ほど厳しいものではないため、リサイクルがしやすくなるメリットがある[2][6]。同法案は、2021年1月1日に施行され、カリフォルニア州は米国で初めて廃棄PVモジュールをユニバーサル廃棄物と分類する州となった[6]

  • ワシントン州: ワシントン州では、2017年に新たな法案が可決されたことを受け、プロダクト・スチュワードシップ、または、拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility:EPR)と呼ばれるアプローチに基づき、「Photovoltaic Module Stewardship and Takeback Program」[7]が考案された[8][9]。同プログラムは、2025年7月1日に施行される予定であり、2017年7月1日以降に購入されたPVモジュールが対象となる[8]。同規定では、PVモジュールの製造者が、廃棄モジュールの回収及びリサイクルプログラムに伴うコストを負担することが義務付けられる[8]。ワシントン州は、アメリカで初めてEPRプログラムを導入する州となった[11]

  • ニューヨーク州・ナイアガラ郡: 2021年6月にナイアガラ郡で新法案[11] が可決され、PVモジュール製造者がモジュールの回収及びリサイクルを管理し、そのための費用負担をすることが義務付けられた。これを受け、ナイアガラ郡は、EPR政策を取り入れる米国で初めての地方自治体、ワシントン州に次ぎ2番目の管轄となった[12]。製造者や製造者が代理として委託するスチュワードシップ機関には、スチュワードシップ計画書を郡に提出することが義務付けられ、どのようにしてモジュールの回収及びリサイクルの資金を賄い、プログラムを管理するのかを詳細に記載しなければならない[11]。2022年8月1日以降、製造者、流通業者、小売業者、設置業者は、ナイアガラ郡Local Law No.4に準拠しない限りは、同郡内でPVモジュールを販売することは禁じられている[13]


表1 米国における太陽電池モジュール廃棄に係る規制[3][5], [7], [11]

  PVモジュールに特化した規制の有無 廃棄PVモジュールの扱い 統括
連邦レベル ×
資源保護回復法(Resource Conservation and Recovery Act: RCRA)に準拠する
固形廃棄物

廃棄モジュール排出者は、毒性指標浸出法(Toxicity characteristic leaching procedure:TCLP)もしくは排出者として所有する情報に基づき、PVモジュールが有害廃棄物に該当するかを判断する責任がある。

TCLPを通過した場合:無害固形廃棄物(RCRAサブタイトルD)

TCLPの条件に満たない場合や、排出者が所有する情報に基づきモジュールが有害であると判断した場合:有害固形廃棄物(RCRAサブタイトルC)
米国環境保護庁(The U.S. Environmental Protection Agency: U.S. EPA)
カリフォルニア州
DTSC Regulation R-2017-04
ユニバーサル廃棄物として再分類
発効日:2021年1月1日
カリフォルニア州有害物質規制局(Department of Toxic Substances Control:DTSC)
ワシントン州
Chapter 70A.510.010 RCW (The Washington Photovoltaic (PV) Module Stewardship and Takeback Program)
拡大生産者責任制度(EPR)に基づく
発効予定日:2025年7月1日
ワシントン州環境保護局(Washington State Department of Ecology)
ニューヨーク州・ナイアガラ郡
Niagara County Local Law No.4
拡大生産者責任制度(EPR)に基づく
発効日:2022年8月1日
ニューヨーク州・ナイアガラ郡


使用済みPVモジュールの排出量が世界的に高い米国国内において、今後どのような廃棄規制や法案が導入されるかは、注目に値する。また、米国における動向は、世界のリユース・リサイクル市場全体にも少なからず影響を与えることだろう。次回は、米国の太陽光発電業界がどのようにPVモジュールの廃棄問題に取り組んでいるかを探る。

References

[1] IRENA and IEA-PVPS, “End-of-Life Management: Solar Photovoltaic Panels,” 2016. Accessed: Jan. 05, 2023. [Online]. Available: https://www.irena.org/publications/%202016/Jun/End-of-life-management-Solar-Photovoltaic-Panels

[2] T. L. Curtis, H. Buchanan, G. Heath, L. Smith, and S. Shaw, “Solar Photovoltaic Module Recycling: A Survey of U.S. Policies and Initiatives,” 2021. Accessed: Jan. 31, 2023. [Online]. Available: https://www.nrel.gov/docs/fy21osti/74124.pdf

[3] United States Environmental Protection Agency, “End-of-Life Solar Panels: Regulations and Management.” https://www.epa.gov/hw/end-life-solar-panels-regulations-and-management (accessed Feb. 01, 2023).

[4] United States Environmental Protection Agency, “Solar Panel Frequent Questions.” https://www.epa.gov/hw/solar-panel-frequent-questions (accessed Feb. 01, 2023).

[5] Department of Toxic Substances Control (DTSC), Final Regulatory Text April, 2020 Photovoltaic modules (PV modules) – Universal Waste Management Department of Toxic Substances Control reference number: R-2017-04 Office of Administrative Law Notice File Number: Z-2019-0409-04. Accessed: Feb. 01, 2023. [Online]. Available: https://dtsc.ca.gov/wp-content/uploads/sites/31/2020/10/C.-RegTextFinal-PVM-09252020_no-watermark-PV-Regulations.pdf

[6] Department of Toxic Substances Control (DTSC), “California is the First in the Nation to Add Solar Panels to Universal Waste Program.” https://dtsc.ca.gov/2020/10/26/news-release-t-17-20/ (accessed Feb. 01, 2023).

[7] Washington State Legislature, RCW 70A.510.010—Photovoltaic module stewardship and takeback program—Definitions—Requirements—Enforcement—Penalty—Fees—Rule making. Accessed: Feb. 01, 2023. [Online]. Available: https://app.leg.wa.gov/rcw/default.aspx?cite=70A.510.010

[8] Washington State Department of Ecology, “Solar panels.” https://ecology.wa.gov/Waste-Toxics/Reducing-recycling-waste/Our-recycling-programs/Solar-panels (accessed Feb. 01, 2023).

[9] Washington State Department of Ecology, “Our recycling programs.” https://ecology.wa.gov/Waste-Toxics/Reducing-recycling-waste/Our-recycling-programs (accessed Feb. 07, 2023).

[10] Northwest Product Stewardship Council, “First solar product stewardship law passed in Washington State.” https://productstewardship.net/news/first-solar-product-stewardship-law-passed-washington-state (accessed Feb. 07, 2023).

[11] Niagara County Legislature, Resolution Approving Rules and Regulations for Local Law No.4 of 2021. Accessed: Feb. 01, 2023. [Online]. Available: https://cms5.revize.com/revize/niagaracounty/Document_center/Department/S-Z/Solar/Solar-Law.pdf

[12] Product Stewardship Institute (PSI), “Niagara County Passes Nation’s 2nd Solar Panel Producer Responsibility Law.” https://productstewardship.us/press_releases/niagara-county-passes-nations-2nd-solar-panel-producer-responsibility-law/ (accessed Feb. 01, 2023).

[13] Niagara County, “Niagara County Solar Panel Recycling Local Law.” https://www.niagaracounty.com/government/county_information/niagara_county_solar_panel_recycling_local_law.php (accessed Feb. 01, 2023).

Author: Saki Kobayashi / 小林 さき

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